★★★ご注意★★★
ここから先にあるのは、「生理」を取り扱った小説です。
内容自体は18禁でも何でもないのですが、人によってはデリケートなテーマだと思われます。
なので、抵抗のある方は戻られる事をお勧めします。
問題ない!という方は下にお進みください。
二人ずつで見張り続ける間、魔物がやってくる事もなく夜は更け、やがて空は白み始め。
一行は、無事に朝を迎えた。
朝食を準備し、男用のテントを片付け、さてを起こそうとエドガーは立ち上がった。
「ちょっと待ったエドガー。どこに行くんだ」
「決まってるだろう。を起こしに行くんだ」
肩に置かれたロックの手を払い歩き出そうとすると、今度はマッシュの声に引き止められた。
「ずっと思ってたんだけどさ、兄貴ばかり様子を見に行くのは、ちょっと狡くないか」
「狡い?今まで出入りは俺がしていたのだから、起こしに行くのも俺でいいだろう」
何を言いだすんだというエドガーの戸惑いを余所に二人は「誰が今からを起こしに行くか」で揉め、エドガーも役目を譲るまいと慌てて話し合いに加わった。
「こんな話し合いは時間の無駄だと思わないか」
「無駄じゃない。大体俺だってが心配なのに、なんで兄貴ばっかり様子を見に行くんだよ」
「入れ替わり立ち替わり人が出入りすると、返っても落ち着かないと思うが」
「心配なのは俺らも一緒だっての!可哀相に、お前ばかりがテントに来るから、今頃いつ襲われるかと怯えてるかもしれないぞ」
「ロックお前、本当に俺を何だと思ってるんだ!」
「『女好きの王様』。どうだ否定できるか?反論できるか?」
「く…っ」
「大体、寝ている女の子を起こしに行くとかだな、そんな良い役…じゃなくて大事な役目、お前に任せてたまるかよ!」
一言も返す事が出来ず黙り込んでいる間に二人はじゃんけんを始め、勝ったマッシュが拳を突き上げテントに駆け出した。あまりの勢いにそのままテントに飛び込みはしないかと焦ったエドガーだが、マッシュは流石に彼の弟だった。入り口前で一旦止まり、髪や服の乱れを直し、深呼吸をくり返し、やがて上ずった声で「、起きてるか?入っていいか?」と一言声をかけ、紳士的に彼女の許可が出るのを待った。
テントの中から声がした。エドガー達の位置からは聞き取れなかったがマッシュには聞こえたようで「は、入るぞ」と、いそいそと入って行き、そしてすぐに出てきた。眉間にしわを寄せながら戻ってきて「兄貴、が呼んでる」と言い捨てるや否や、近くの石に座って林檎を勢いよく齧り始めた。不機嫌なのは明らかで、その原因が、自分ではなくエドガーが呼ばれた事にあるのも明らかだ。後でどう言い繕うか悩むが、とりあえずはテントに入るのが先だ。
声をかけて中に入ると、昨日より青い顔をしたがいる。朝なのにテントの中だけは夜のままのように感じた。
「呼んでごめんね、準備とかで忙しいのに」
「丁度準備が終わった所だから、何も問題は無いよ。君の方こそ具合は」
「昨日より良くない…いつも、始まった次の日のお昼頃が一番痛みが酷いのね。だからお昼までには飛空挺に着いてると良いけど…」
「分かった。君の準備が出来次第、すぐ出発できるようにしておく。今食べ物を持ってくるから」
「ありがと」
テントを出て大急ぎで林檎とスープを手に取り、またすぐテントに入ると、落ち着かないのかお尻をもぞもぞ動かしている。普段なら適切な処置をして、男性陣に悟られぬよう振舞っている筈の大事な部分は今、とても酷い事になっているのだろうと想像した。労るべきなのに、浮かんでくるのは有らぬ妄想ばかりだ。
膨らむ妄想を抱いたまま、スープを吹いている姿を見つめていると、視線を感じたのかが顔を上げ、目と目が合った。
「なんで見てるの?」
「スープが熱そうだから、ちゃんと飲めるか見ていたのさ」
「そんなに見なくても、スープくらい一人で飲めるよ」
「どうかな?私が飲ませてあげようか」
「…ばか」
血の気のない顔がぽっと染まった。罵りの言葉の割に嫌がってる様子はない。エドガーはふと、普段の彼女とは態度も雰囲気も大きく違うのは、生理が関係しているのかもしれない、と考えた。
いやはや、女性は奥が深い。
感慨にふけりながらエドガーがテントを出た少し後に、がテントから出てきて、マッシュに空になったスープの皿を渡した。
「マッシュ、美味しかった。ありがとう」
「おう。すぐ出発するけど大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
その言葉を合図に、エドガーはロックと二人で女性用のテントを畳み始めた。背後でマッシュの話し声がする。
「具合、少しは良くなったか?」
「うん…これから酷くなると思うんだ」
「まだ顔が青いもんな…歩けそうか?」
「……」
返事が聞こえない。テントの中での様子を思い出して、きっとあの応急処置で歩いても大丈夫かどうか気にしているのだと分かった。素早く二人に近付き 「どうしても動けないようだったら抱きかかえて行くが、どうする?」と声をかけると、はこくんと頷き「そうしてもらえると助かる…」と呟いた。
「では、」
「俺が抱えて行くよ。兄貴は荷物を頼む」
マッシュに役割を奪われてしまった。「はそれでいいか?」とマッシュに問われ戸惑いながら頷くが、ちらりとすまなそうにエドガーを見た。小さく頷いて応えたエドガーは、二人しか知らない秘密の気配を感じて、それだけで満たされた。
先頭をロック、その次をマッシュと彼に抱きかかえられた、最後尾にエドガーの順で、急いで元来た道を引き返した。
襲いかかってくる敵は、行きの道中で特徴や弱点をある程度知る事が出来たとは言え、強敵であることに変わりは無い。しかも行きとは違いこちらは戦える人間が一人減っている。怪我が増え疲労が増すのは当然のことで、エドガーとロックは戦い疲れ、マッシュはを抱えながら戦ったため更に疲れ、は痛みがピークに達して喋る事すら出来なかった。それでも重い身体を引きずりながら飛空挺に戻って来た一同は、最後の力を振り絞って談話室に入り、ようやくその場にくすれ落ちた。
「何事でござる!?」
談話室にはガウと、彼に箸の使い方を教えていたカイエン、ソファーに座って日向ぼっこ中のティナがいた。四人の憔悴ぶりにカイエンがまず飛び跳ね、ガウは心配なのか戸惑っているのか、傍をウロウロしている。うとうとしていたティナがハッと目を覚まし、真っ先に駆け寄ってきた。
「どうしたの?そんなに強敵が多かったの?大丈夫?ケアルする?ポイゾナする?エスナする?ねえどうしたらいい?そうだわアレイズを」
「いや、何でもない」
「え、でも……」
「ただ、疲れただけだ……」
矢継ぎ早なティナの問い掛けにやっとの思いで答えたエドガーは、緊張の糸が切れたのか、その場で意識を失った。
次に目が覚めた時、エドガーはベッドの上に寝かされていた。
起き上がろうとして身体の軽さに焦った。鎧を身に付けていないのだ。慌てて見回すと気絶した間に脱がされたのだろう、サイドテーブルの足元に置かれていた。意外にもあまり時間はたっていないようで、窓の外はまだ青い空が広がっていた。
隣のベッドにはマッシュが、その隣にはロックが、恐らくさっきまでのエドガーと同じようにぐっすり眠っている。二人を起こさないようにベッドを抜け出し廊下に出ると、キッチンから食欲をそそる匂いが漂って来た。昼食にしては遅く夕食にしては早すぎるが、思えば朝食を食べて以来何も口にしていない。誰だか知らないが少し分けてもらおう。そんな期待をしながらキッチンを覗き込むと、
「!もう動いて大丈夫なのか?」
「あ、エドガー」
飛空挺で待機する時によく着ているゆったりしたワンピース姿のがいた。鍋を火にかけながら、腕まくりをしてフライパンで何かを作っている。
「丁度良かった、今ご飯が出来たとこだよ」
匂いにつられて鍋を覗き込むとポトフが湯気を立てていて、一方フライパンではベーコンエッグが肉の焼けるいい音を出している。見るからに美味しそうな食事は三人分のトレイに用意されていて、それをぼんやりと見ている間には、ナイフでパンを食べやすい大きさに切りわけた。
「今からみんなの所に行く所だったんだ。エドガーはどうする?立ったままだけど、ここで食べる?」
「そうするよ。いい匂いで我慢できそうにない」
は調理台に置いたトレイの一つをエドガーの前にずらし、手頃なコップに水差しの水を注いだ。「ありがとう。早速頂こう」と言った後、彼らしくもなく目の前の食事にがっついた。自分でも思った以上に腹が減っていたようだ。味わって感想のひとつも言うのが作ってくれたレディへのマナーなのかもしれないが、そんな余裕もなく、あっという間に全てを平らげてしまった。我に返ってを見れば、自分のマグカップに注いだポトフをちびちび食べながら嬉しそうにエドガーを見ていた。急に恥ずかしくなって照れながら笑い返すと、「お腹空いてたんだね。無理もないか、丸一日寝てたもんね」と言われ、驚いた。
「丸一日?数時間しか経っていないと思っていたが」
「ううん、一日寝てたよ。皆で話しあって『疲れてるからゆっくり寝かせてあげよう』って事になったの。でもずっと何も食べないまま寝てるし、ご飯作ったら起こしに行こうと思ってた」
「そうか」
「一日経ったし、わたしも大分動けるようになったよ。あの後すぐ薬を飲んでシャワーして、ずっと寝てたから」
確かに言われてみれば、数時間で回復したとは思えないほど顔色が良くなっていた。不安そうな顔もしていない。思わず生唾を飲み込むような官能的な雰囲気もない、いつもの彼女だ。物足りなさよりも安堵のほうが強かった。彼女には笑顔の方がよく似合う。
「それは良かった。君が悲しい顔をしていると、調子が狂ってしまう」
紛れもない本音だったのに、それを聞いたはいたずらっぽく笑った。
「どうかなあ。どさくさに紛れて口説こうとしてなかった?」
「ばれたか」
目が合って、二人で同時に噴き出した。しばらく小さく笑っていたが、やがて「エドガー、」と改まった様子で名前を呼ばれた。
「なんだい?」
「本当に助かったよ。二人に気付かれないようにしてくれて、色々助けてくれて。わたし一人だったらきっと何にも出来ずに泣いてたと思う」
「大げさだよ」
「ううん。エドガーもいきなりあんなこと言われて困った筈なのに、心強かった。本当にありがとう」
「君の為なら、大した事は無いさ」
心の底から感謝され、美味しい食事まで用意され、その愛らしい笑顔を向けられれば、それで十分報われる。すっかり満ち足りた気持ちになったエドガーはトレイを一つ持って微笑んだ。
「二人の元に食事を運ぶのだろう?手伝うよ」
「うん……」
「どうした?」
視線をあちこちに彷徨わせながら、最後に少し顔を伏せて、は笑った。
「エドガーが女の人にもてる理由、何となく分かった」
「…?」
「だって昨日わたしも思ったもん。エドガー、頼もしくて…その、す、素敵だなー…って」
改めてを見れば、も意を決したように見つめてきた。視線が合った事に照れたのか自分の言葉に照れたのか分からないが、顔が赤くなった。今まで見た事のない、エドガーを男だと強く意識した態度だった。
「、」
「ね、エドガー。わたしに触らないの?」
「?」
「昨日みたいに、触らないの?」
昨日の、旅の最中。
様子がおかしいのを心配しての額に手を当てた時の事を思い出した。あの瞬間、彼女の中で何かが変わったのだ。もしあれが旅の最中でなく、例えば飛空挺で二人きりだったりしたら。そして途中で邪魔が入らなければ、二人の関係はエドガーの望むように変化していただろう。
黒い瞳は熱を帯びていて、濡れた唇は誘うように半開きになっている。あの時の続きをして欲しいと、遠回しに訴えている。
「君がそうして欲しいのなら、勿論、喜んで」
感謝と食事と笑顔で満たされたつもりだったが、やはりそれだけでは物足りない。細い腕を掴んで自分の方に引き寄せ、覆いかぶさるようにして抱きしめた。しばらく腕の中の温もりを堪能した後、頬の輪郭をなぞり、そのまま指を滑らせて唇に触れると、戸惑った表情の後、待っていたかのように瞳を閉じる。
身体が不安定になると、人としての理性よりも女としての本能が勝るのか、今の彼女は触れなば落ちん、といった風情だ。ますます欲を掻き立てられたエドガーは、さっきよりさらに赤くなった顔の、緊張で微かに震えている唇に自分の唇を近づけながら、瞳を閉じた。
「そこまでにしとけよ。もうすぐガキどもが外から帰って来るぞ。続きがしたけりゃ部屋でやれ」
乾いた声が割り込んできて、二人は弾かれるように離れた。声のした方を見るとセッツァーが水差しの水を飲んでいる。珍しくグレーの作業着姿なのは、飛空挺の整備をしていたからか。水を飲み終えた後は保冷庫を開けてアイスを取り出し「バニラしかねぇのか」と呟いて去っていった。
変にからかわれたり騒がれるよりも淡々と流されると返って気恥ずかしくなるもので、普段ならセッツァーに言われる間でもなく部屋に移動するエドガーも、今回ばかりはそれをしなかった。の身体の事もあるし、子供たちが帰って来て冷やかされるのも望ましくないと考えたのだ。
それでその場は「えっと、二人に食事持って行くね」とそそくさとトレイを持つを手伝って二人の寝ている部屋に向かうしかなかったのだが、それでこの件が治まった訳ではなかった。
むしろ、始まりに過ぎなかった。
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