俺の個室、ベッドの上で。
 正座したが、深く頭を下げる。
 「今年もお世話になりました、マッシュ」
 突然何が始まったんだと思いながらも、生真面目な様子が面白くて、俺もかしこまって頭を下げた。
 「こちらこそ、お世話になりました」
 下げた頭を上げるタイミングは同時で、目があった途端我慢できなくなって笑ってしまった。
 「いきなり真面目な顔するから、何事かと思ったよ」
 「へへ、びっくりした?あと何時間かで新しい年になるから、きちんと挨拶しとこうと思って」
 はにこにこしながら俺の隣に座りなおした。パジャマの上だけを着て下は履いていないものだから、すらりとした脚がむき出しだ。
 「下、履けばいいのに。寒いだろ」
 「どうせすぐ脱いじゃうでしょ?あ、違うか。すぐ脱がせちゃうでしょ?」
 上目づかいで甘える黒い瞳は明らかに俺を挑発していて、そんな時は可憐な彼女がやけに蠱惑的に見える。
 「だから、履かなくてもいいかなって」
 柔らかな体を擦りよせて耳元で囁かれた瞬間、理性が吹き飛んだ俺は、勢いよく彼女に覆いかぶさった。


納めて始めて ゆく年編


 唇を重ねると、んんっと跳ねるような声をあげた後、の舌が口の中をこじ開けて入ってくる。そんなに俺を欲しがっていたのかと感動しながら、小さな舌を絡め取るように何度もキスを繰り返した。くちゅ、くちゅと唇から漏れる粘ついた音に、んっ、はあっ、との吐息混じりの声が重なる。どこか媚びるような声に欲望を掻き立てられ、早速パジャマのボタンを外そうとすると、突然が名残惜しそうに唇を離した。
 「まだ駄目だったか?」
 「ううん、」
 「じゃあ、どうした?」
 は上気した顔を向けると、パジャマのボタンを外し始めた。もしかして自分で脱ぎたい気分だったのか。行為が嫌だとか怖い、とか拒否するものでないのなら何でもいい。それに自分で服を脱ぐ彼女を見るのも新鮮でいいもんだ。そう思ってぼんやりと動く指を目で追っていると、全てのボタンを外し終わった手が、するりとパジャマを脱いだ。
 「……どうかな」
 「え?」
 現れたのは白い肌。どんなに滑らかで気持ちいい触り心地なのかよく知っている、艶やかに輝く肌。
 全てが曲線で出来ているかのような、女性らしいしなやかな身体。
 そして、少し小さめなことを本人が気にしている胸と、引き締まっている事が自慢のお尻を隠す下着。
 その布に俺は目が釘付けになった。
 いつもは白や淡い色が多いのに、その日の彼女は、やけに面積の小さい、黒い下着を身に着けていたのだ。
 黒いレースに縁取られた胸は、その大きさに関係なく、匂い立つような色気に満ちている。両側を細い紐で結んでいるだけの黒いショーツは、解いて欲しそうに結び目が緩んでいた。あれを解いたら、俺だけが侵入を許されている場所が露わになる。思わず手を伸ばしかけて、が何か言いたげにしている事に気付いた。
 頭がくらくらするほどの快感に飲み込まれるのはまだ早いか。何とか自制して、視線で話すように促す。
 「ね、どうかな」
 「どうって」
 「…大みそかから新年まで一緒に過ごすから、特別だからと思って、ちょっと、いつもしないような下着、つけてみたんだけど……」
 の声がどんどん小さくなっていく。表情が曇り始める。
 「変じゃない?おかしくない?……嫌じゃない?」
 「……」
 さっきまでの大胆さが、嘘のように消えていた。
 俺の事が好きで好きでたまらないと全身で表現していた身体が、ぴたりと動きを止めている。
 内気な彼女が今夜のためにと挑発的な格好をして、その結果、俺に嫌われる事を恐れていた。
 ああ、好きだな、と唐突に思った。
 この子の素直さも、真面目で頑張り屋なところも、内気なくせに変に大胆なところも、とても好きだ。
 そして今、ちょっと頭が悪い所も好きな事に気がついた。
 俺がを嫌う事なんて、ある筈がないのに、馬鹿だ。しかもこんなに魅力的な姿を嫌うなんて。

 小さく笑って、俺は不安できゅっと結ばれた唇に、ちゅ、とキスをした。
 「すっげえ似合う」
 恐る恐るが目を開く。
 「ほんと?」
 「ああ。似合うし可愛いし、」
 ずっと解けそうだった紐を軽く引っ張ると、大事な所が見えそうで見えない所まで、ショーツが緩んだ。急かされているような焦らされているような相反する気持ちになって、一気に下半身に熱が集中する。
 「すぐ挿れたくなるくらい色っぽい。たまんねえ」
 が顔を真っ赤にした。真っ赤な顔のまま笑顔になって、それにもきゅうんとした。
 「ほんと?変じゃない?」
 「変どころか、すげえ可愛いぞ」
 今度はブラを外す。黒い布が少しずれた時に敏感な部分がこすれたのか、が「あんっ!」と甲高い声を上げた。
 その声と、適度にはだけたセクシーな下着。しばらく眺めて楽しみたかったのだけど、俺の方が限界に近付いていた。熱が溜まっていく一方で、長く持ちそうにない。
 「、これからどうして欲しい?」
 「む、胸、いじって欲しい。マッシュ、いじって?」
 とろけるような声が行為の再開の合図で。
 俺は言われるがままに、つんと尖った先端をいじった。
 胸全体を揉みながら、そこだけ指で押してみたり。
 摘まんでこねくり回したり。
 赤ん坊みたいに吸ったり舐めたり。
 その合間に、虫が這うような動きでわき腹を不規則に撫でまわしたりしているうちに、の息はどんどん荒くなって、
 「ん、んんっ」
 くぐもっていた喘ぎ声は、
 「あっ、はぁん、そこ、いいっ!」
 と、快楽に溺れたものになっていった。
 もうそろそろかと入れた指は面白いように飲み込まれ、その感触にもう我慢が出来なくなった。の脚を広げ、ぬめりを帯びて俺を待っていた入口にぶすりと挿入したとたん、頭が真っ白になって何もかもがどうでもよくなり、夢中で腰を動かした。
 「ああああん!マッシュ、いいっ、すき、だいすきっ!」
 が叫ぶように喘ぎながら腕を俺の首に回し、同じように腰を激しく動かしている。
 ショーツはいつの間にかベッドの下に落ちていた。いつ落ちたのか気付かなかったくらい、俺たちはお互いを感じる事で頭がいっぱいだった。
 「マッシュ、わたし、もう、だめっ!」
 絶頂を迎えたが仰け反るのを見ながら、俺は彼女の中に欲望を吐き出した。
 時計はとっくに12時を過ぎている。ユーリと繋がりながら迎えた新年は、最高の年になりそうな予感がした。



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