へ
、元気か?
カイエンは家族の事を思い出して落ち込んだりしてないか?ガウははしゃぎすぎて周りに迷惑をかけていないか?
ナルシェはニケアや今まで旅をしていた所に比べて寒いから、風邪をひいたりしてないか?
風邪の予防にいい食べ物を書いとくから、ちゃんと食べるんだぞ。
抵抗力を高めるのは魚介類、卵、肉類、卵、大豆、乳製品、免疫力を高めるのはイチゴ、みかん、キウイ、ブロッコリー、ほうれん草、イモ類、
のどや鼻などの粘膜を保護するのはほうれん草、人参、カボチャとかの緑黄色野菜だ。
疲労回復や新陳代謝を良くして免疫機能を高めるのはカキなどの魚介類、赤身の肉類、レバー、豆、ナッツ類。
は好き嫌いはないから大丈夫だろうけど、バランス良く食べる事が大事だからな。
長い間一緒に旅をしていたから、少し離れるだけで心配で心配でたまらないもんだとつくづく思っている。
おっと、話が大分それてしまった。俺は今、フィガロ城でこの手紙を書いている。
10年ぶりに帰ってきたから、最初の一日は懐かしくて城を歩き回るだけで終わってしまったよ。
兄貴の元に、ティナがフィガロからコーリンゲンの方へ飛んでいったという情報が入って、ロックとセリスが確認に行っている。数日はかかるらしい。
俺はその間に旅に必要なものを買い揃えている所だ。
またティナの事で分かった事があったら連絡するよ。も、困ったことがあったらすぐ俺に相談するんだぞ!
マッシュより
PS.知らない人に声を掛けられてもついて行くなよ!絶対だ!
灰色の空の下、凍える雪の中を健気に飛んできた伝書鳩をいそいそと温かい部屋に招き入れて、餌を用意してあげて。
その首にぶら下げられた小さな筒を外して、は蓋を開けた。
無地の白い便箋を開くと大きな筆圧の強い字が並んでいて、彼らしいその字に思わず顔が綻ぶ。は外にいたカイエンとガウに声をかけ、紅茶を3人分準備した。
ここはナルシェ。
ティナを探してフィガロに向かったのは、エドガー、ロック、セリス、それにマッシュの四名。
またいつ帝国が攻めて来るかわからない状況なので、ナルシェには籠城戦の経験があるカイエン、帝国兵やモンスターが来ていないか偵察するために素早くて小回りが利くガウとが残ったのだ。
「…という手紙がマッシュから届いたの。ティナ、遠くまで飛んでいったみたい。ねえカイエンさん、コーリンゲンってどんな所?」
「ううむ。あまり聞いたことのない地名でござる。おそらくは小さな村なのでござろう。ロック殿の故郷、と聞いたでござるが、それより…」
「大変だ!モンスターが侵入してきた!」
ガードの声に、二人はほぼ同時に剣を取り、外に駆け出した。現場に向かいながら、カイエンは言いかけた言葉を飲み込む。
マッシュ殿はちと、過保護なのではなかろうか。
マッシュへ
マッシュ、手紙ありがとう。わたしは元気です。カイエンさんも元気です。
ガウ君は今は元気です。こないだまで風邪をひいてたけどね。
わたしもガウ君も雪を見るのは初めてでしょ?だから、毎日のように二人で雪遊びしてたの。雪合戦したり、雪だるま作ったり。
わたしはその後ちゃんと着替えて温かくして寝ていたんだけど、ガウ君は遊んだ後はいつも濡れた服のままベッドで寝ちゃってたみたいで。
起こしに行ったら、熱で真っ赤になってたからびっくりしたよ。
今わたしたち、長老さんの家にお世話になってるんだけど、近くの家から来てる家政婦さんがガウ君のためにお粥を作ってくれたのね。
家政婦さん、とても料理が上手で、何を食べても美味しいの。だからわたし、あの人に料理を習おうかなってちょっと考え中。
マッシュは10年ぶりにフィガロに帰ったのね。やっぱり嬉しかった?懐かしかった?
あと何年か経って故郷に帰ることがあったら、わたしもやっぱり嬉しかったり懐かしかったり思うのかな。
ティナ、コーリンゲンってところにいるといいね。一人ぼっちで不安だろうから、早く見つけてあげて。
また何か分かったら教えてね。
より
PS・マッシュが書いてくれた風邪に効く食べ物、殆どナルシェにないものばかりだったよ。
へ
元気か?モンスターに襲われて怪我してないか?
真正面から戦うだけじゃなくて、時には逃げることも大事だぞ。
昨日の夜遅く、ロックたちが帰って来た。ティナがコーリンゲンの村に来たのは本当らしい。明日の朝一でフィガロ城を動かして、コーリンゲン村に行く。
そうそう、フィガロ城は地面の中を行ったり来たり出来るんだぞ!今度にも見せてあげたいよ。
ガウは風邪をひいたのか。でももう元気なんだな、良かった。あいつは服を着るのが嫌みたいだけど、ナルシェではもっと厚着して欲しいよな。
あと、料理を習うのは良いけど怪我だけはするなよ。厨房は危険の集合体だぞ。
包丁で指を切った傷から雑菌が入ってしまう事で、破傷風って病気になる可能性もあるんだ。
肩こり、舌のもつれ、顔が歪むという症状で始まり、次第に吐いたり喋れなくなったり歩けなくなったりする。
その後けいれん発作が起きて、全身発作に進展することもある…と兄貴が言ってた。
火傷だって馬鹿にしちゃいけない。軽いものでさえ痛かったり腫れたりする。酷いと水ぶくれが出来て痕が残る。最悪死んでしまう事もあるんだ。
ところでその家政婦さんって、男か?女ならともかく男なら気をつけろよ。料理を教えると見せかけてどんな事をするか分からないぞ。
例えば、はカレーライスを料理して食べたいと思っている。
でも、男が料理して美味しく頂きたいのは別のもの(、と書いて消した跡がうっすら見えた)である可能性がある!
…うーん、やっぱり心配だ。ティナを見つけたらすぐに帰ってくるから、俺が料理を教えるよ。それまで料理を習うのは待っててくれないか。
マッシュより
PS.家に一人でいるときは、相手を確認するまでは鍵を開けるなよ!開ける場合でもチェーンを付けたままにするんだぞ!
「…だってさ。料理って、そんなに危険なものなの?」
「破傷風は滅多にかかるものではござらんよ。ミナも結婚した当初は良く指を切っていたが、そんな病には一度もなっていないでござる」
「だよねえ。そんなに危険な病気なら世の中のお母さんたちはみんな病気がちだし、レストランの料理人なんて誰もなりたがらないよねえ。それに、」
はふふっと小さく笑った。
「家政『婦』さん、っていうくらいだから、当然女の人に決まってるのにね。マッシュってば変なの」
マッシュ殿、お主の心配は空回りしておりますぞ。
曖昧に笑い返しながら、カイエンは心の中で、ため息をついた。
マッシュへ
コーリンゲン、気をつけて行って来てね。
ティナに会えるといいね。わたしまだ、あの子と色んなこと話したいんだ。初めてできた女の子の友だちだから。
あ、ティナの事も大事なんだけど、フィガロ城が動くってことに凄く驚いたよ!?お城って動くものなの?どうやって動くの?変形したりするの?
ごめんね質問攻めにしちゃって。だって想像つかないんだもん!見たい!絶対見せてね!
そうそう、結局わたし、家政婦さんに料理習い始めました。火傷しないように気をつけながら頑張ってます。破傷風は滅多になるものじゃないそうだし、大丈夫かなって。
今日はシチューと、カイエンさんが魚好きだって聞いたから、晩酌のお供に、と思って魚の煮付けを教わりました。今夜二人に作ってあげるの。
ごめんね、マッシュが帰ってくるまで待てなくて。料理が上達したらマッシュにも作ってあげたいな、って思ってさ。
だからマッシュが「これが好き」って料理があったら教えてくれる?帰ってくるまでに美味しく作れるようになるから。
あと、家政婦さんは女の人です。50歳くらい(正確な歳は教えて貰えなかったの)でご主人がナルシェのガードをしてるんだって。
息子さんが一人いるんだけど、女の子が欲しかったそうで、わたしの事をとても可愛がってくれます。
料理もだけど掃除や洗濯の仕方も優しく教えてくれて、何だかお母さんのようです。
より
PS.ガウ君に、濡れた服はちゃんと着替えるように、あと雪遊びの後は暖かくするように言いました。
風邪をひく前は嫌がってたけど、風邪をひいてからは懲りたのか、ちゃんと着てくれるようになりました。
へ
ナルシェには慣れたか?雪が冷たくて凍傷や霜焼けになったりしてないか?寒さでの手が荒れないか心配だ。
何かあったらティナにケアルをかけてもらって…って、俺たちはティナを探しに行ってるんだったよな。うっかりしてた。
俺たちは昨日コーリンゲンに着いた。のんびりした田舎の村だ。ロックの故郷でもある。
そして、ロックの恋人が亡くなった場所でもあったらしい。これ以上はあいつの事情だから、勝手に詳しくは書けない。ごめんな。
だけどその事が、ロックがリターナーに入った理由とも関係しているそうだ。
偶然とはいえロックの過去を知ってしまって、俺も城を出るまでの色んな事を思い出してしまった。結局昨日の夜は眠れなかったよ。
そういうわけで村の人からロック経由で仕入れた情報によると、ティナはジドールという街の方に飛んでいったらしい。
着いたばかりだというのに今から出発しないといけないから、大変だよ。
ところで、料理習い始めたのか。家政婦さんが女の人ならいいんだけど、怪我しないように気をつけろよ。
ちなみに俺の食べたいものは、
クルミが好きだから、クルミが入ってる料理が、いいなあ…。
PS.暗くなったら決して外に出るんじゃないぞ。夜は色んな危険があるんだからな。
どうしても出かける用事がある時はカイエンかガウに付き添ってもらうんだぞ。
「ティナ、コーリンゲンにいなかったってさ…」
「ジドールと言うと、富裕層が集まって作られた町でござる。随分遠くに行ったのでござるな」
「うん。…ロック、恋人を亡くしてたんだね。知らなかったよ。いつも明るくって親切だったから、そんな辛いことがあったなんて」
「うむ……」
カイエンだけが気付いていた。
マッシュの手紙の空白の部分に、何度も「が食べたい」とか「がいい」と書いて、綺麗に消した跡がある事を。
マッシュへ
ジドールかあ。
カイエンさんが言うには、お金持ちが多い街らしいね。そこにティナがいるといいんだけど。
色んなところ飛び回って、疲れてるんじゃないのかな。大丈夫かな。
マッシュはクルミが好きなのね。じゃあクルミを使った料理、何か作れるようになっておきます。お菓子の方がいいかな?どうかな。
そうそう、わたしたち、ただ長老さんの家にいるだけじゃないんです。
カイエンさんは魔物が来た時いつも先頭に立って戦ったり、戦いで壊れた建物を直すのを手伝ったりして、ここの人達から尊敬されています。
特に(料理を習っている家政婦さんもそうなんだけど)熟年の女の人達にカイエンさんのファンは多いです。キャーキャー言われています。
ガウ君は鼻が効くし、草原を一人で生きて来ただけあって、植物に詳しいです。山に入っては傷に効く薬草や木の実なんかを沢山取ってきてくれます。
それまではこの町、交通の便が悪くて薬の材料が手に入りにくくて大変だったそうなんだけど、今はガウ君のおかげで薬を沢山作ることが出来るそうです。
あとガウ君は無邪気だから、おじいちゃんやおばあちゃんに人気があります。
わたしは力が弱くてカイエンさんのように建物を直す手伝いは出来ないし、植物にも詳しくないからガウ君みたいに薬草を取ることも出来ないのだけど。
少しでも役に立てるように、カイエンさんと一緒にモンスターと戦ったり、働いてる人達や見張りをしているガードの人達にご飯を運んだり、怪我をした人の手当てを手伝ったりしてます。
あ、そうそう。こないだ手紙に書いた家政婦さんの家に夕食に呼ばれて行きました。夜だったから、ちゃんとカイエンさん達に付き添ってもらったよ!
ご主人は仕事で留守だったけど、息子さんがいました。ガード見習いで、今修行の真っ最中だそうです。
しっかりして見えたから年上かと思ったけど、同い年でびっくりしました。真面目そうで優しそうな人でした。
カイエンさんも彼の事を、見所がある青年だと褒めていたし、ガウ君も懐いていました。
近いうちに見習い同士の練習試合があるらしくって、応援に来て下さいと誘われたので、今度行ってきます。
より
マッシュはその手紙を、ジドールの宿屋で受け取った。
ロックや兄の冷やかしと嗜めるセリスの声を背後に聞きながら部屋に入り、ナイフを使うのももどかしく、手で封を切る。
小さいけれど整った、やや右上がりの筆跡。彼女らしい文字に心が和んで、その後本人が目の前にいるかのように赤面して手紙を読んだマッシュの顔から、血の気が引いていった。
「が………食われる!!!!」
「兄貴!兄貴いいい!!!」
「どうしたマッシュ!?そんなに慌てて」
「悪いけどナルシェに戻ってくれないか!?が危険なんだ!」
一同は、またナルシェに舞い戻る羽目になった。
は突然戻った来た一同に驚いたが、やけに殺気立っているマッシュと、やけに疲れきっている他の3人を目の前にして、詳しい事情を聴くのも気が引けて、何も聞かず覚えたての手料理をふるまうだけに留まった。
ちなみに4人が戻ってくる原因になったガード見習いの青年は、応援席にの姿を見つけて一瞬だけテンションが上がった。
だが、彼女の横にぴったり張り付いている熊っぽい男がやたら殺気を放ってきて、カイエンとガウがそれを必死で宥めているのと、
その横にいる金髪美女が同情するような視線を送ってくるのと、
その横にいるバンダナ男が「あいつセリスばっか見てるぞ!見るな!こっち見んなあ!」と叫びながら美女の前で腕を振りまくるのと、
その横にいる身なりのいい男がその横にいる自分の母親を口説きまくっているのを見て(そして母親がまんざらでもない様子なのを見て)、
集中力が削がれまくった結果、それまで絶好調だったのが嘘のように試合にぼろ負けしてしまい、何だかんだで今回の一番の被害者になってしまうのだった…。
終わるのだった……。
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