今日は8月16日、エドガーとマッシュ、フィガロ兄弟の誕生日だ。
長いこと一緒にいるから、飛空挺のメンバーはもはや家族みたいな関係になっている。その延長か、誰かの誕生日は飛空挺でみんな揃って祝う、というのがいつの間にか習慣になっていた。みんなも、それにわたしも飛空挺での誕生パーティーを経験していたけど、フィガロ兄弟がいよいよ誕生日を迎える!という頃に世界が崩壊したから、二人だけが誕生会をしていなかった。今までの誕生会を見ていた二人が、その日をとても楽しみにしていることも知っていた。
だからこそ、みんなは張り切った。
こんな時だから、ぱあっと派手にやろう!と張り切る人もいれば、リア充な俺達の恐ろしさ、ぼっちのケフカに見せつけようぜぇ…と悪い笑顔を浮かべる人もいた。いつも助けてもらっている二人に美味しいご馳走を作る!と意気込む人も、それを聞いて食料のチェックに立つ人もいた。そこからは、「買い出しに行かないと!」「飾り付けもね!」「プレゼントの準備は!?」と途端に慌ただしくなり、急遽作戦会議が開かれることになった。
会議の結果、食事班、飾りつけ班、買い出し班、二人の相手班、と、それぞれ分かれて行動する事になった。
食事班と飾り付け班はそのまんま料理と飾り付けをする係、買い出し班は足りない食べ物や二人のプレゼントを買いに行く係。そして二人の相手班は、フィガロ兄弟と近くの町に出かけ、パーティーの準備をしている事に気付かれないようにする係だ。
わたしは押し付けられるように二人の相手班になり、当日は二人を飛空挺の外に連れ出さないといけなくなった。班、というのに一人だけだったことを、もっと深く考えるべきだったのかもしれない。
とにかく作戦決行の朝、わたしはリルムが考えた作戦通り、談話室で寛いでいるフィガロ兄弟に近づいて、二人の目を交互に見つめた。二人は紅茶を飲んでいる手を止めて、真剣にわたしの様子を伺っている。わたしはまた台本通り、「…つ、付き合って欲しいの…」ともじもじしながら言った。
エドガーの肩がびく!と跳ねて、カップの紅茶が全部零れた。マッシュの顔が真っ赤になって、紅茶と同じ色になった。
「付き合う…突き合う…俺が…と…突き合う…俺が…を突く…それってつまりセ」
「エドガー、そこから先は18禁だよ。王様失格だし、人としてもどうかな…」
「つ、つまり俺とけ、結婚してくれると、そ、そういうこと…だよな?」
「違います」
双子は何か盛大に勘違いしていた。凄い、この反応、リルムが予想した通りだ。驚いたけど慌てて「今日一日、買い物に付き合って欲しいの。こないだ寄った村で、この辺に新しい町が出来たって聞いたから行ってみたいんだ」と用件を言った。二人は何だか拍子抜けした顔で、こくんと頷いた。
外にいる時間が長ければ長いほどみんなの準備時間が増える。早く行こうと急かすと、二人は顔を見合わせて、いそいそと部屋に戻り、身支度を整えてきた。
これもリルムの筋書き通りだ。あの子すごいなあ。
風の噂では、新しく出来たのは町だと聞いていたけど、いざ着いてみるとそこには大きな建物も舗装された道もなかった。ただ屋台やテント、小屋はあちこちに立っていて、人が住んでいる場所、店が集まっている場所、町で言う広場に当たる場所、と、なんとなく分かれている。
近くの屋台に入り、三人で「町よりも集落、って言った方が近いかも」なんて話をしていると、近くにいたおじさんが「ここはこれから大きくなるんだよ」と笑った。おじさん曰くここは、故郷や家を失い、当てのない旅の果てにこの地にたどり着いたとか、行商で世界を回っていたけど、何しろ危険な世の中だから一時的に定住することを選び、少しでも豊かな土地を目指してここを探し当てたとか、ようは居場所を失くした人達が流れ着いた場所だそうだ。このおじさんも裁きの光で住んでいた町を失い、この集落の噂を聞いて旅して来たのだと言う。
「まだ小さな集落だけど、ここはこれからもっと人が増えて、村になって町になって国になるんだ!」
わたし達に言っているのか、もしかすると自分を奮い立たせているのかもしれないけど、おじさんの力強い言葉は希望でも予想でもなく、まるではるか未来の現実のように聞こえた。
それはさておき。
「見てご覧!この絹織物、こんなご時世じゃ滅多にお目にかかれない代物だよ!」
「腹が減っては戦は出来ぬ!どうだいこの干物!大きくて美味そうだろ!」
あちこちで客寄せをする人の声がこだましている。張りのある大声に負けないよう、わたしも大声で尋ねた。
「ね、二人はどこか行きたいところとか欲しいものとかない?」
「俺達?」
「エドガーはインクが無くなりそうって言ってたし、マッシュは茶葉が残り少ないって言ってたでしょ。だから今日は二人の買い物に付き合うよ」
二人は顔を見合わせて笑い、わたしの方を見てまた笑った。
「なあに言ってんだ、元々が『買い物に付き合って欲しい』って誘ったんだろ?」
「う…それはそうだけど」
「私達は今日一日、君の買い物に付き合うよ、レディ」
頼もしい二人に守ってもらいながら安心して買い物できるなんて、わたしにとっては嬉しい限りだ。けれどこの後の飛空挺でのパーティーだけでなく、この集落にいる間だってうんと楽しんでもらいたい。だって誕生日だし。
それなのに「インクはまた別の機会でいいよ」とエドガーは笑う。マッシュも「俺も、茶葉はまた今度にする」と頷く。二人とも、わたしの都合を優先しようとしていた。
「でもさ…」
「あーもう、いいったらいいんだよ!」
マッシュが大声を出した。「俺達はが楽しければ楽しいんだよ!だからは何も遠慮しなくていいんだ!」
「そ、そ、そうなの?」
「マッシュの言うとおりだ。が楽しそうにしているのを見ていれば、俺達も楽しいよ」
もう、なんていい人達なんだろう。エドガーは二人きりになるとしょっちゅう肩や髪に触ってくるし、マッシュは過保護すぎるくらい過保護だけど、この優しさの前ではそんなのはとても些細なことだ。
わたしは折れた。二人の厚意を有り難く受け取って、ほんの少し申し訳なさを感じながらも、楽しく辺りを散策することにした。
お昼になり、お腹が空いたわたし達は美味しそうな匂いのする屋台に入り、串焼きを頬張っていた。肉も豊富にあるんだ…と感心していたら、屋台のおばさんや家畜連れでここに来た人達で協力し合って牧場を作り、少なかった家畜達も、ようやく食べ物で商売が出来るまでに増えたのだそうだ。おばさんの努力の賜物を感動しながら味わっていると、二人がしきりに自分の肉をすすめてきた。
「、この豚バラをどうぞ。焼き上がったばかりで美味しいよ」
「うん」
「、こっちの鶏肉の方が大きいぞ」
「うん」
わたしはまだ砂肝を食べている最中だから、そんなに次々すすめられてもすぐには食べられない。
「マッシュ、俺が先に豚バラをすすめたんだ。少し待ってなさい」
「でもは鶏肉の方が好きなんだよ。分かってねえな兄貴は」
「両方ください!」
ようやく食べ終わり、同時に串焼きを受け取った。どちらもとても香ばしくて美味しい。
「、どうだ?うまいか?」
「うん、凄く美味しい!」
「豚バラと鶏肉、どちらが美味しい?」
「え、どっちも同じくらい美味しいけど」
「それじゃ駄目だ。私の豚バラに、マッシュの鶏肉、どちらがより美味しいか答えてくれ」
エドガーの青い瞳がやけに真剣だ。何なのこの人、とマッシュを見ると、こっちもまた真剣にわたしを見ている。なんだか分からないまま、わたしも真剣に味わいながら考えた。けれどシンプルな塩コショウの味付けでいくらでもいけそうな豚バラに、パリッパリに 焼いた皮とジューシーな肉がたまらない鶏肉はどちらも甲乙つけがたかった。
「どっちも同じくらい美味しい」
「だから!」
「だってほんとにどっちも同じくらい美味しいんだもん。何度言われても、どっちが美味しいかなんて選べない」
二人は顔を見合わせて一瞬にらみ合った。けれどきっとわたしの見間違いだ。二人はとにかく仲が良くて、喧嘩した所なんか一度も見たことが無かったから。それを証明するかのように、エドガーは困ったように、マッシュは朗らかに「じゃあ仕方ない」と言わんばかりの顔で、おばさんにお金を払い立ち上がった。
お腹いっぱいですっかりいい気分になって足取りが軽くなる。そのせいで注意力散漫になっていたらしい。よそ見をしていて、前から来た人にぶつかりそうになった。
「おっと、大丈夫かい。私に掴まって」
ぶつかる寸前、肩を抱き寄せてわたしを庇ってくれたのはエドガーだ。機械を作る時に付いたのか、細かい傷が幾つもある長い指。 今日は鎧を着ていないから、熱が直に伝わる大きな胸板。エドガーが触って来ることは少なくないとはいえ、不意打ちだったからびっくりした。驚きすぎて息を止めてしまっていて、苦しくなって息を吸い込んだら薔薇の匂いとエドガーの匂いも一緒に吸い込んでしまった。普段つけている事に気付かないエドガーの香水の匂いは、近づくと仄かに甘い香りがして、そんなに密着しているという事実だけで体の芯が甘く痺れそうになる。
「あ、ありがと」
なんとか変な気分になる前に離れ、慌てて歩き出した途端、今度は石に躓いて転びそうになった。
「おっと!危ないなあ」
「あ…ごめん、マッシュ」
今度はマッシュが腕を掴んで体を支えてくれて、わたしは転ばずに済んだ。ここまでお世話されるなんて、わたしももう大人なんだからしっかりしないと…と思いながら謝った。マッシュは頷き、腕を離し、今度はわたしの手を取って歩き出した。
「…マッシュ」
「ん?」
「この手は…」
「ああ、また転んだら危ないからさ」
大きくてごつごつして、わたしの手なんてすっぱり包んでしまう、頼もしい手。変にどきどきする。「気を付けるからもう転ばないよ…」と反論はしてみたけど、マッシュの手が離れる事はなく、逆に固く握られてしまった。
エドガーが嗜めるかと思いきや、なんだか彼はやけに無口だ。マッシュに一言言ってよ、と訴えるわたしの視線に気づきもしないで何か真剣に考えている。
結局言い返す言葉も見つからず、わたし達は手をつないだまま歩き続けた。マッシュは上機嫌だったけど、わたしはずっとどきどきそわそわしっぱなしで、普通に歩くのがやっとだ。
それにしても、買い物の件、串焼きの件、今回と、随分親切にされているような気がする。二人が親切なのは今に始まったことではないとして、張り合いながらわたしの世話を焼くなんて、いつもとは明らかに様子が違う。
一体何なんだろう、と少し考えたけど、本当に少し考えただけだったから何も分からずじまいだった。
この時もっと真剣に考えておけば、あんなことにはならなかった…。
ある露店の前を素通りしようとした時、視界の端に光るものを見止めて、思わず足を止めた。近づくとピアスやネックレスなどのアクセサリーが、陽の光を隠す赤い空の下でも眩しく輝いている。
「なんだ、欲しいものがあるのか?」
「ううん。でも少し見て行きたい。見てもいい?」
「もちろんだ」
「ありがとう」
お礼を言った後早速、わたしは品物を一つ一つ手にとって眺めた。値札の異様に安い金額から考えて、高価な宝石ではなくガラスや質の良くない宝石を研磨したり加工したりして作った物なのだろう。だけどデザインは洒落ているし、ガラスや石も、ぱっと見では粗悪さを感じないくらいうまく加工されていて、何と言うか、いい仕事ぶりが分かる代物だった。店を出しているのは熟練の職人さんだったのだろうか。
見るだけのつもりだったけど、ティナの髪留めが戦いで壊れて、地味な色の髪ゴムを使っているのを思い出し、折角なのでお土産がわりに買って行くことにした。そうなると他の二人に買わない訳にはいかないと思い、ネックレスとブレスレットも選んでお金を払い、包んでもらった。
今までずっと黙っていたエドガーが「おや」と不思議そうな声を上げた。
「、それは他の三人のだろう。君は買わないのかい」
「うん」
「どうして。こういうの好きだろ」
あまり興味なさそうに佇んでいたマッシュも不思議そうにわたしの手元を覗きこむ。
「しばらくはこの場所から移動しないってセッツァーが言ってたのを思い出したの。それならすぐまた来れるから、その時にじっくり選んでから買おうと思って」
「そうか」
「ふうん」
嘘をついた。本当は単純にお金が無いだけだ。
皆から「二人のために使うように」と預かったお金ならまだある。けれどそれは二人が欲しいものを買ったり美味しいものを食べたり、要は楽しい思いをするために出してあげる金だから、ここで使ってはいけない。それで自腹を切ろうとしたのだけど、個人で使えるお金はさっきの串焼きでほとんど使ってしまい、今はアクセサリーを三人分まで買える額しかないから諦めた。
お店のお兄さんが包み終わったお土産を渡してくれたので、お礼を言ってその場から離れた。買えないのに見ていても辛いだけだし。
そんな未練を振り切るようにひたすら歩いて、集落のはずれに来た時だった。
「、少しだけ待ってろよ」
「すぐ戻るから」
二人が突然来た道を戻り始めた。いきなりの事だったから何が起こったのか分からなくて、とりあえずこの場から離れずにいると、本当にすぐ戻ってきた。それぞれに小さな包みを持っている。さっきのアクセサリー屋さんの包み紙と同じだ。男性用のアクセサリーも少しは置いてあったから、きっと自分用のアクセサリーを買ったのだろう。羨ましくてため息をつくと、二つの包みが目の前に差し出された。
「え、なに、どういうこと」
「開けてみろよ、きっとこれ、気に入るぞ」
「開けてごらん、君に似合う物が入っているから」
「わたしに?」
二人は同時に頷いた。
ああもう、どうしたらいいんだろう。接待するつもりだったのに接待されてしまっている。今日の主役であり、本来ならもっとちやほやされるべき人達にちやほやされてしまっている。嬉しさよりもお金を使わせた後悔と、自分の気配りのできなさへの呆れがこみ上げる。けれどここでそれを言って、ほくほくした笑顔を浮かべている二人の気持ちに水を差すようなことはできない。包みの中身が気になったのも事実だったし、大人しくエドガーの包みから開けてみた。
「きれい…」
出てきたのはピアスだった。青い色のガラスが涙型に加工してあり、動くと揺れるようになっている。普段こういう大人っぽい色とデザインのピアスはつけないのだけど、吸い込まれるような深い青色が揺れて輝く様はとてもきれいで、一目で気に入った。エドガーの言葉の後押しもあったことだし、早速その場でつけてみる。少し大人になった気がした。
「ああ、やはり似合う」
エドガーが、心の奥が動かされて、それが表に滲み出て来たような、深い笑顔を浮かべた。「平和を取り戻したら、本物をプレゼントするからね」と続ける彼の顔をまともに見られないわたしは、頷くふりで俯いた。俯いた拍子に揺れたピアスの、金具が擦れた小さな音までがわたしを動揺させる。
「、俯いてないで俺のも開けてくれよ」
そうだ、動揺していてマッシュのことをすっかり忘れていた。謝った後、今までの空気を払拭するようにガサガサと音を立てて包みを開けると、手のひらに輪っかが転がり落ちてきた。
「あ、かわいい!」
小さなリボンのモチーフがついた、華奢な鎖をつなぎあわせたようなリング。決して派手ではないけれど、だからこそ毎日つけていても飽きなさそうだ。しばらくリングを眺めていたわたしは、すぐにその特徴に気付いた。
「ん?これ、鎖で大きさを調節できるのね」
中指に嵌めてリボンを動かし、丁度いいサイズに合わせて手をかざしてみた。リングはまるでオーダーメイドのように品よく馴染み、戦い続きで傷が増えた爪も短い手にもかかわらず、不思議と女性らしい綺麗な手に見える。
「これいいね!凄く素敵!」
「そりゃ良かった。でも、間違ってんぞ?」
マッシュが嬉しそうに笑いながらわたしの手を取った。何が間違ってるのか分からなくて目の前の出来事をただ見ていると、マッシュは鎖を緩めて中指からリングを外し、別の指、それも左手の薬指にするりと嵌めなおした。
「うわわわわ!中止!中止!」
エドガーの時は怯んだけど、ここで流されてはいけない!この贈り物には深い意味がある、今更それを悟ったわたしは叫びながらリングをマッシュに返した。ピアスも大急ぎで外してエドガーの手に押し付けた。何が中止なのか自分でも分からないけど、とにかくこの流れを変えないと!
「どうしたんだよ。気に入ったって言ったくせに」
「私に返されても、これは君のために買ったものだよ」
「落ち着いて!最初から説明して!」
ヒステリックにわめくわたしを困ったように見て、次いでお互いの顔を見合わせた双子は、どうしてこうなったのかを交互に、そして丁寧に説明してくれた。
マッシュは語る。
昨日の朝、俺と兄貴は談話室で、今日の誕生日のことを話していたんだ。皆どんなサプライズを用意しているんだろうとか、きっとすごいご馳走だとかをさ。そしたらティナとセリスが「明日のためにちょっと聞きたいことがあるの」とか言いながら入ってきた。
「聞きたいこと?もちろんいいよ、レディ達」
兄貴が言った。もちろん俺も頷いたよ。ティナが「ありがとう」と笑ってメモ帳を取りだした。セリスが咳払いをして「正直に答えてね」と念押しした。聞かれたのは次のことさ。
「誕生日に限らず、欲しいこと、したいこと、望む事はありますか」
これだけだ。明日が誕生日なのに「誕生日に限らず」なんて、セリスにしては間の抜けた質問だなと思ったよ。でも言われたとおり正直に答えた。世界が平和を取り戻すこと、緑をよみがえらせることが願いだってな。兄貴は「世界が乱れ国が乱れ、人の心も荒んでいる。平和を取り戻して秩序を取り戻すのが私の望みだよ」って言ってた。かっこいいだろ、俺の兄貴は。
だけど不思議なことにさ、ティナもセリスも不満そうな顔をしたんだ。
「聞きたいのはスケールの大きな願いじゃなくて、もっと小さなことななんだけど」
ティナがむくれた。
「二人が個人的に望んでいること、無いの?」
エドガーが続けた。
個人的に望んでいる事ならもちろんある。けれど私達が一緒に旅をしているのは、世界を平和にしたいからだ。私はまずその願いを叶えたい。自分のことはその後だ。
…と言ったらレディ達に睨まれたね。「いいから、何か望む事があったら言ってみてよ」とね。誤魔化すことも考えたが、二人とも真剣で、一歩も引きさがりそうになかった。だから願いを言ったんだ。流石に少し照れたよ。
私が勇気を出したから、マッシュも続けて自分の願いを言った。偶然と言うか、まあ実は薄々感づいていたんだが、私とマッシュは同じことを願っていたんだ。
私達の言葉を、ティナもセリスも目を輝かせて聞いていた。そして嬉しいことに「その願い、叶えてあげる。ただし二人とも同じ願いだから半分ずつね!」と言ってくれた。
それからは、君以外の皆がそろって、いかに君に気付かれないよう計画を立てるか考えたよ。ざっくりした計画をロックとセッツァーが考えて、カイエンとストラゴスが計画に穴が無いかチェックし、セリスが女性目線でさらにチェックした。その後レディ達は君が自然な流れで私達と行動するための台本を作ったね。ここはリルムが大活躍だったよ。全てが整ったところでガウが君を呼びに行き、私達は甲板に移動した。
『誕生日プレゼントにが欲しい。とりあえず二人きりでデートがしたい』
世界の平和に比べたらちっぽけで個人的すぎるだろう?だけど、私達が絶対に叶えたい大事な願いだよ。
だから、お願いだ。
どうかこれからずっと、私かマッシュのどちらかが、君の恋人として振舞うことを許してくれないか。とにかく君が欲しいんだ。突然のことで戸惑うだろうが、私もマッシュも、決して後悔させないくらい君を大事にするつもりだよ。
説明されるまで、全てが計画だったことに全然気付かなかった。
起こったことを整理するのに夢中で呆然と立ちすくむわたしの右手を、いつの間にか跪いていたエドガーが握り、そっとキスをする。優しく握っているのに、驚いて振りほどこうとしてもびくともしなかった。
「逃がさないよ、レディ。どうか返事を」
唇に触れたままの手の甲がくすぐったい。身体の奥で熱いものがうごめいて、エドガーのことしか考えられなくなりそう。
「、俺を選んでくれよ。絶対後悔させないから」
左手を、マッシュの手が包み込んだ。またまたびっくりして見上げると、そこには情熱を隠しきれない、真剣な目をしたマッシュがいた。いつものような穏やかさはどこにもない。急にマッシュを男の人だと意識してしまい、痛くなるほど早く大きく胸が鳴っている。
どうすればいいんだろう。どっちを選べばいいんだろう。ていうか、どうしてこうなったんだろう。
「、愛しているよ」
「大好きだよ、」
状況は理解できた。二人が真剣なのも、どちらかを選ぶまでわたしが逃げられないというのも、悲しいことに理解できた。だけど現実逃避なのか、わたしの頭の中は全く違う事でいっぱいだった。
二人の誕生日なのに、わたしにサプライズをプレゼントして、どうすんのよ。
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