偶然仲間になったシャドウと、バレンの滝で別れた。
感情を見せない暗殺者だったが、彼がひた隠しにしている人間臭さの片鱗に、僅かながら触れることが出来た。それに一度触れてしまうと、シャドウと別れるのは思った以上に名残惜しいことだった。それでも根拠のない再会の予感を頼りにして、去って行く姿を見送った。
黒一色の後ろ姿が完全に見えなくなった後、のアドバイスを元に飛び込んだバレンの滝は、一見すると危険そうなのだが、滝壺に落ちて流れに身を任せてしまうととても楽だった。流れが結構速いせいか、魔物が潜んでいる様子も感じられない。滝で戦った魔物達が案外手強くて体力を消耗してしまっていたから、これはありがたい事だった。体が冷えるのだけは気になるが。
「お、マッシュ殿も無事でござったか。よかったでござる」
俺より先に川面に浮かんでいたカイエンが話しかけてきた。片腕でを抱きかかえるようにしている。目を閉じているが顔色は悪くない。多分、気絶しているのだろう。
「カイエンも無事だったんだな。怪我は無いか? は大丈夫そうか?」
「拙者はかすり傷だけでござるが……殿は恐らく気を失っておるだけでござろう。マッシュ殿は?」
「別に怪我はしてねえんだけどよ、もう疲れちまった」
「ほう?」
初めて訪れる場所で、初めて出会う魔物と戦い続けた。それだけでなく帝国兵にも追われ、魔列車にまで乗った。滅多にない経験として新鮮に受け止めている一方で、実を言うと酷く疲れていた。けれど一緒に旅しているが文句一つ言わないのに、俺が弱さを見せるわけにはいかない。というか見せたくない。完璧とまではいかなくても頼もしい存在でありたい。自分でも理由は分からないが、そんな意地がある。
だが、そのが気絶している時ぐらい、弱音を吐かせてほしい。
「早くナルシェに行きたいのに、すっげえ遠回りばかりしている気がする……今だって川に流されてるし、うまくその獣ヶ原ってとこに着いても、その後どうなるか分からねえし」
カイエンは目を丸くした後、ふうっと大きく息を吐いた。
「このままでいいのでござるよ」
「どういうことだ?」
「もうしばらく流されれば、流れが緩やかになり、水深も浅くなり、上陸しやすい河原に着くでござる。そこから陸に上がると、獣ヶ原」
「へえ」
「獣ヶ原にはモブリズという町があるでござる。拙者、偵察のために一度立ち寄ったことがあるでござるよ。まあその時は船で川を下ったのだが」
「町があるのか!? それは初耳だ」
「モブリズは獣ヶ原唯一の町。故に船や伝書鳥など、他の町と繋がる手段が発達しているでござる。必ずナルシェに行ける方法が見つかるだろうから、それまではしばらく流れに身を任せるとしよう」
カイエンは明るく言って、「マッシュ殿はフィガロ出身でござったな。かの国は帝国との同盟を破棄したと聞いたが、本当でござるか?」と尋ねてきた。
「ああ、事実だ。表では帝国と同盟を結び、裏ではリターナーと手を組んで、反撃のチャンスをうかがっていたらしい」
「なんと! フィガロ王はまだ若き王と聞いていたが、随分肝の据わった男でござるな……」
「だろう? 俺もそう思うぞ!」
そこからはフィガロ王(というか兄貴なのだが)の話を少しした後、ナルシェのこと、リターナーという組織のこと、帝国の動向の話をした。きな臭い内容の会話を冗談のように暢気に交わしているうちに、重かった気分はだいぶ、軽くなっていた。
「少しは気が晴れたでござるか」
「あ? まあな。とりあえず町があると分かっただけでもほっとしたぜ」
「それは良かった。旅は道連れ世は情け、でござる。どこまでお役に立てるか分からぬが、愚痴や弱音を聞くぐらいは出来るでござるからな」
確かに、少し吐き出しただけでずっと楽になった。彼はずっと励ましてくれていたのか。
新しい仲間は、無骨だが心根の優しい、いい奴だ。魔列車で見せた機械音痴で恐がりな面と併せると、親しみやすい奴と言った方が正しいだろう。
さて、カイエンの話では、徐々に流れが遅くなり、川が浅くなって上陸しやすくなるということだが、一向にそんな気配はない。
「カイエン、いつになったら上陸できるんだ?」
「もうとっくに上陸できる川原に着いている筈でござるが……」
「じゃあなんで俺たちはまだ流されてるんだよ」
「……もしかすると数日前にこの地域で大雨が降ったのかもしれぬ」
カイエンが言うには、以前はこの辺りから上陸できそうな川原が見えたそうだ。だが恐らくここ最近で大雨が降ったのだろう。水かさが増え、流れは弱まらず、当然上陸できる川原は水の底だ。このままでは獣ヶ原に上陸できないまま海に流されてしまう。そうなったらナルシェどころではない。
「ど、どうすればいいんだ」
「分からぬ!」
どうすればいいのか分からないが、どうにかしなければ。あてもなく陸を見ると、四つん這いで川と平行に走る獣の姿が見えた。何の獣かは分からないが、人ではなかった事に心底絶望した。だがその影は何故かこちらの様子を伺っているふしがある。アイツがただの獣か魔物か、それとも別の何かは分からないが、文字通り溺れる者は藁をも掴む、だ。このチャンスに賭けない手はない。俺は両手をばたばたさせて、陸に向かって叫んだ。
「助けてくれ! 溺れそうなんだ! おいカイエンも叫べ、あそこに何かがいる!」
「何と! おーい、助けてくれでござる! おーい!」
そんなに大きくはない獣は硬直した後、奇声を上げてその場から逃げてしまった。絶望で目の前が真っ暗になったのは言うまでもない。逃げ去っていく姿に、なぜか兄貴や師匠、城の皆の顔が重なる。
ああ、これが走馬灯ってやつだな。城を出て10年、兄貴を支えるために頑張ってたってのに、こんな終わり方、ねえよ。
いい年をして泣きそうになりながら流されていると、ずっと川下のほうで、何か重い物を投げ入れたような大きな水音がした。
流されているから俺もカイエンも、何が起こっているのか分からない。謎の水音はその後数回聞こえ、止んだ。何の音だろう、まさかこの川にも魔物がいるのか、など考えていると、流されるだけだった体が何かにぶつかり、やっと止まった。俺たちを止めたのは、川の流れを遮るようにして倒れている、何本もの大木だった。
「た、助かったでござる……」
カイエンが、を大木の上に上げて一息ついた。同意見だと言いたいが、さっき叫びすぎて喉が痛いので、頷くだけに留めた。
とりあえずは安全な場所に移動するのが先だ。大木に捕まりながら川べりに移動し、さらにごつごつした岩場を上ると、やっと平らな大地が見えた。
「カイエン、ここが獣ヶ原か?」
「そうでござる。やっと、着いたでござるな。あの大木が無ければ、どうなっていたことか」
を背負ったカイエンが息も切れ切れに答え、急に真剣な顔になった。
「マッシュ殿……あの大きな水音は、大木が投げ込まれた音では……なかろうか」
「え?」
「あの大木に捕まったとき、葉も青々として……木の幹には、虫が這っておった……つまりついさっきまで、川には無かったと言うことで……」
カイエンの口調は歯切れが悪い。体も妙にふらついている。顔色も、ずっと水の中にいたせいで真っ青だった。今にも倒れそうなその姿に、小さな黒い点がぽつぽつと浮かび始めた。黒い点は凄い早さで増え、視界を真っ黒に埋め尽くしていく。
あ、こりゃ気絶するな。その予感通り、意識が急激に遠のいていく。意識を失う最後に、カイエンが膝から崩れ落ちるように倒れたのを見た。
「はっ!」
起き上がったのは、気を失ったのと同じ場所だった。少し日は傾いているがまだ明るい。目の前で倒れたはずのカイエンを見る。まだ目は覚まさないものの息遣いは規則正しく、気絶というよりは眠っているように見えた。色々あったし疲れたのだろうから、自然に目を覚ますまでこのままにしておこう。どうなることかと思ったが、意外に何とかなるもんだな。胸をなで下ろした後、カイエンの側で倒れているの様子を伺った。
白かった肌にうっすら赤みが差し、うつぶせに倒れていた背中が静かに上下している。目を閉じた顔は穏やかで、こちらも大きな怪我はしていないようだ。
とはいえ、は滝で意識を失ったきりだ。もしかすると体のどこかを強く打ったとか、混乱や毒などの攻撃を食らったとなれば、見た目ほど大丈夫ではないかもしれない。心配になって、静かに上下する背中をそっとゆすった。
「」
「う……」
はうっすらと目を開け、ぼんやりと俺を見た。
「大丈夫か」
「なんとか……」
「どこか痛いところはないか? 具合はどうだ?」
「大丈夫……ただ、疲れた……」
小さく答えた後、はまた目を閉じる。再び立てる寝息は穏やかで、自己申告の「大丈夫」が事実だと信じさせるには十分だ。しばらく倒れていても魔物の襲撃がなかったことから、ここは安全な場所なのだろう。
それにしても。
川に流されていたから当然と言えば当然なのだが、俺たちは皆ずぶ濡れだった。も勿論例外ではない。髪の毛は濡れて顔に張り付き、さっきよりも血色のいい唇は半開きになっている。厚手の服は流石に透けることはなかったが、それでも横向きに倒れているの体が柔らかな曲線で出来ていることをはっきりと見せつけていた。知っていたけれど忘れていた、というよりは色々支障が出そうだから考えないようにしていたことを強烈に再確認した。は女の子なんだ。
そう言えば、と帝国の陣地を通り抜けた時のことを思い出す。あの時は魔導アーマーで逃げ出す時、一体に俺とが乗り、もう一体にカイエンが乗るよう指示した。魔導アーマーは一人乗りだから、俺が先に乗ってを膝の上に乗せた。は魔導アーマーなんか見たこともないし、当然操縦もできない。だから俺が後ろから操縦したのだが、女の子を膝に乗せて覆い被さったあの体勢は、いくら下心が無かったとは言え相当いかがわしい。しかも何が問題かって、俺はあの体勢が決して嫌ではなかったのだ。むしろ喜んでいたように思う。腕の中に収まる小さな体に、支配欲に似た気持ちさえ覚えていた。
「って、落ち着け俺!」
自分でも驚くほど邪な考えを振り払って、俺は未来に目を向ける。その後色々な事がありすぎたから、俺はその事を今まで忘れていた。も気にしている様子はなかった。だからこのままお互い忘れていればいいんだ。忘れていれば。
「とは言ってもなあ……思い出しちまったんだよなあ……」
をまた眺めた。鍛えているから引き締まっているのだが、それでも柔らかかった体。俺の髪質とは真逆の、さらさらした黒い髪。いい匂いまでしていた気がするのは流石に気のせいだ。見つめているうちに押さえの効かない衝動がわき上がりそうになり、慌てて目を逸らす。けれど完全に無視することなど出来なくて、何度か目を逸らしてはまた見つめて、を繰り返していた時だった。
「うー」
「…………」
「がう!」
「!?」
変な声に、ふわふわしていた意識が吹き飛んだ。これはの声ではない。かといってカイエンでもない。慌てて起き上がると、ぼさぼさ頭にぼろぼろの服を纏った少年が、俺を観察するように見ていた。
「君は……」
「!」
少年は体を思い切り強ばらせた。怖がらせるつもりなどなく、彼が俺たちを助けたのかどうか、彼が何者なのかを聞きたかっただけだ。が、それを説明する間もなく少年は弾かれるように後ろに飛んだ。お互いに様子を伺っていると、背後でカイエンが起き上がる気配がした。そちらに気を取られた一瞬の間に、少年は物も言わず一目散に走り去った。
「今のは……」
「分からない。だけど、あの子が俺たちを助けてくれたんだと思う」
川に流されている俺たちを、あの子しか見ていない。細身だが背は高く筋肉質、逃げる姿は魔物並みに俊敏だった。きっと普段からこの地で過ごしているのだろう。何よりあの四つん這いで走る姿。川でみた影の主に違いない。
「しかし……あの大木を何本も川に投げ込むほどの力が、あの少年にあるだろうか」
「そこなんだよなあ」
あんな大木を短時間で切り倒し、しかも川に放り投げるなんて、正直俺には出来そうにない。と言うか殆どの人間には無理だと思う。そんな真似が出来るのは、恐らく神か、魔物だ。魔法だとか魔列車だとか短期間で想像を超える不思議に出くわした身ではあるが、ただの少年を神や魔物だと信じられるほど、俺は素直ではない。
「う……」
小さなうめき声で我に返り、俺は素直でないうえに馬鹿だと思い知った。がまだ気絶していることを、すっかり忘れているなんて!
うめき声の後、は頭を押さえながら起き上がった。うっすらと目を開けてぼんやりしている。状況を飲み込んで目の焦点が合ったのを見計い、声をかけた。
「気がついたか?」
「大丈夫、しばらく休んだら楽になったよ。……ところで、ここ、どこ」
「獣ヶ原でござるよ」
まだから目を逸らしている俺の代わりに、カイエンが答えた。
太陽は、まだ高い位置にある。
に俺たちがどうやって助かったのか説明し終わり、さあ出発しようか、という話になった。だだ俺は疲れて動く気にならず、二人も同じように、なかなか腰を上げようとしなかったそのうちカイエンがテントを組み立て始め、はその辺に落ちている木の枝を集め始めた。俺はといえば無意識に荷物の中から食べられそうな保存食や調味料を漁っている。
もう疲れたからここで野宿しよう。誰も口には出さないが、そういう流れになっていた。気づけばこんな風に、いつの間にか黙っていても意見が合うようになり、黙っていても役割を分担している。非常食用にバッグに詰めておいた桃の缶詰を開けながら、何だか家族みたいだな、と温かな気持ちになった。
俺たちが家族だとしたら、カイエンはもちろん父親だ。俺は年齢差も考えて、カイエンの息子、が妥当だろう。は……少し年の離れた妹、といったところだろうか。
いや、と自分の発想にダメ出しをする。なんとなくだが、が妹という設定が気に入らない。もう少しいい役割はないか、と俺は一ギルにもならない思考を巡らせ、ようやく父親と息子夫婦という設定を思い付き、それに大いに満足した。ああこれでしっくりくる。よし、それじゃ今日は買い溜めておいた干し肉とが採った野草を炒めてみよう。桃缶はデザートだ。量は少ないが、何も腹に入れないよりはましだろう……って。
「うわああ!」
「うおっ!」
「ひゃっ」
頭をぶんぶん横に振り、ろくでもない妄想を振り払う。は出会ったばかりの女の子だ。それも、何か悩み事を抱えていそうな訳ありの女の子だ。その子を捕まえて妹だとか夫婦だとか、何を好き勝手なことばかり考えているんだ俺は!
「マッシュ、何!? どうしたの!!」
「ど、どこか痛むのでござるか!?」
「いや、何でもないんだ」
何とか取り繕おうとしたが、当然ながら二人の疑惑のまなざしは消えない。かといってさっきの妄想を口にするのは恥ずかしすぎる。口ごもっていると、が「もしかして、色々トラブルが多い旅だって、気にしてる?」と尋ねてきた。これ幸いとそれに乗っかった。
「……どうも不吉なことばかり考えちまって。考えを振り払おうとしてた」
「まあ、帝国の陣地とか魔列車とか滝に飛び込んだりとか、振り返るとすごいことになってるよね、この旅」
「うむ……命がいくつあっても足りんでござる……」
沈黙が訪れた。まだ明るいのに、二人ともうつむいてしまったせいで辺りが何故か薄暗く感じる。話題を転換した効果が予想以上に大きすぎた。自分の蒔いた種だから何とかしなければ。口を開こうとするが、が口にしたことは確かに俺にとって不安の種だった。そのせいかうまい言葉が出てこない。後悔していると、「でもさあ」とが顔を上げた。
「何だかんだで助かってるんだから、むしろ運がいいんじゃないの?」
どう思う?と問うかのようには俺を見る。その惚けた顔を見ているとおかしくなって、つい声を出して笑ってしまった。つられたのかカイエンまで笑っている。こちらはに悪いと思ったのか声を殺していたが、は「え、何かおかしなこと言った?」と困った顔をしている。
「いや、その発想は無かったなと思ってさ」
「その発想って?」
「俺たちがついてるって話だよ」
言われてみれば、いつどこで死んでもおかしくない旅路だった。けれど帝国の陣地を無事に通り抜け、死者を運ぶ列車から生還し、滝に飛び込んだというのに大した怪我もなく、遠回りながらナルシェにたどり着けそうなモブリズの村を目指している。確かに運がいいと言われれば、そうとも言える。
の楽観的な考え方は、確実に俺の心を軽くした。大人しくて真面目な印象が強かっただが、本当はもっと呑気で前向きな性格なのかもしれない。ただ心に抱えている何かが、彼女を無口にさせているだけで。
「確かに今までも何とかなったし、これからも何とかなるか!」
そう言って笑うと、「そうでござるよ!」「そうだよ!」と、二人も笑う。さっきまで感じていた温かな気持ちが蘇り、さっきのようにまるで家族みたいだな、と思った。けれどその後は火を起こす作業に没頭することにした。ちょっと調子に乗るとまた、のことを妹だとか嫁だとか、好き勝手に妄想しそうになるからだ。
目が覚めると、太陽が既に高く上がっていた。慌ててテントの外に出ると、二人とも自分のテントを片付け、のんびり干し肉を齧っているところだった。最初に俺に気づいたが、「おはよう」と声をかける。カイエンが「どうもマッシュ殿は疲れているようだったので、そのまま起こさなかったのでござるよ」と笑った。ということは夜の見張り番は、二人が交代でしてくれたのだろう。二人には申し訳ないが、確かに昨日より気力も体力も充実している気がする。
「確かにだいぶ楽になったよ。見張り、二人で交代でやったんだろ? 悪かったな」
「いいよ、マッシュの方が疲れてたんだし。あ、これマッシュの朝ごはん」
が、昨日の桃の缶詰の残りと干し肉と、冷ましたお湯をすすめてきた。受け取って食べている間にカイエンが俺のテントを畳もうとする。
「いいよ、俺が自分でやるから」
「いいのいいの、マッシュは食べてて」
「でも、」
「マッシュ殿は早く食事を済ませるでござる。食べ終わったらすぐ出発するようにしなければ。それにモブリズに着くまでに、昨日の少年とも会えるかもしれんでござるし」
カイエンが言外に、だから気にすることは無いのだと言っている。大人しく言葉に従い、遅めの朝食を取った。
城を出て、十年間修行に明け暮れた。兄貴たちと合流した後は絶対に足を引っ張るまい、弱音を吐くまいとしていた。それなのに今回の俺ときたら、弱音を吐いては励まされ、しんどい時には労られ、起きたら食事の用意が出来ている。こんなに無条件に甘やかされたのはいつ以来だろう。
「まあ、たまにはいいか」
ここを発つときにはもう、強さを目指す俺に戻るから。
「これでよし。拙者もテントを畳むのが早くなったでござろう?」
「マッシュ、まだお腹すいてたら言ってね。干し肉まだ沢山あるから」
今だけは、この二人に甘えさせてくれ。
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